接骨院・整骨院の開業方法として近年注目されているのが、自宅を施術所とした自宅開業です。自宅での開業は、家賃や光熱費の削減やワークライフバランスの向上といったメリットがある一方、集患が難しく、インフラ面が脆弱といったデメリットも存在します。自宅開業の特徴を把握して、成功につながるポイントを理解することで、理想の接骨院の実現につながります。また、接骨院の開業に欠かせないものを、開業前にそろえておくことも大切です。
本記事では、個人開業と法人開業の違いから、接骨院における自宅開業のメリットとデメリット、必要なアイテムについて解説します。
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個人開業と法人開業の違い
接骨院における個人開業と法人開業は、多くの側面で異なります。下記に、具体的な違いをまとめました。
個人 | 法人 | |
開業手続き | 開業届の提出(0円) 青色申告を希望する人は「青色申告承認申請書」も提出 | 定款・登記を作成(10~30万円) 会社設立に必要な書類や会社印の用意が必要 |
廃業手続き | 廃業届の提出(0円) | 解散登記・公告等を作成(8~30万円) |
経費の範囲 | 狭い | 広い(経営者への給料や保険料など) |
自宅の家賃 | 事業利用している面積比率や時間比率に応じて家賃を費用にできる(10~30%程度) | 事業利用していなくても、法人契約の借上社宅として費用にできる(50~80%程度) |
税金の種類 | 所得税(累進課税) 個人住民税 消費税 個人事業税 | 法人税(一律) 法人住民税 法人事業税 消費税 など |
経営者個人の事業所得 | 事業所得(青色申告特別控除65万円) | 役員報酬(給与所得控除最大195万円) |
赤字繰超の可能年数 | 3年(青色申告の場合) | 10年 |
信用性 | 低い | 高い |
確定申告 | 個人でかんたんな確定申告 | 複雑で提出書類の量が多い確定申告(税理士に依頼することが多い) |
生命保険 | 所得控除 | 全額経費または2分の1経費など |
社会保険 | 事業者負担なし (5人未満の場合) | 会社負担分あり |
開業に掛かる費用・手続き
個人開業は、法人開業に比べて掛かる費用も低く、手続きもかんたんです。
個人事業主になるための手続きは、税務署に開業届を提出するだけで完了します。個人事業主の場合、法定費用は発生しないため、事業にかかる費用のみで開業することが可能です。
また、確定申告の種類が青色申告の人はこのときに青色申告承認申請書も一緒に提出します。青色申告承認申請書を提出しないと、自動的に白色申告となり、要件を満たすことで所得控除が受けられる、青色申告特別控除などが受けられません。
法人の場合は、設立する会社形態に応じて定款や登記にかかる費用が変わりますが、通常10~30万円もの金額を要します。ほかにも、法人開業では多額の資本金が必要になります。2006年の新会社法施行以降、法律上は1円以上で会社設立が可能です。しかし、資本金が少ないと社会的信用が低くなり、銀行からの融資や法人口座の開設が困難になります。一般的に必要な資本金は、会社設立から3カ月間利益がなくても事業が続けられる金額です。
税金
個人事業主の納める税金の金額は、法人よりも高くなる場合があります。
個人開業における所得税は累進課税であり、最大で45%にまで達します。一方、法人開業で掛かる法人税は、資本金や所得によって税率が異なりますが、個人開業でかかる所得税に比べて税率の上昇が緩やかであり、最大税率も23.2%です。所得が900万円を超えると所得税の税率が23%になるため、所得800万円を目安として法人化を検討することをおすすめします。
また、経営が赤字に陥った場合、個人事業主は法人よりも、納税の負担が軽くなります。個人事業主が赤字経営となってしまった場合、所得税や住民税を納税する必要はありません。これは法人に課される法人住民税が赤字を計上しても発生するためです。
経費の範囲
個人事業主が経費として計上できる費用の範囲は、法人よりも狭いです。
個人事業主は売上から経費を差し引いたものが事業所得となり、自身に入る収入を経費として計上することはできません。法人の場合は給与所得となるため、自身に支払った給与も利益から控除する経費として計上できます。
また、個人事業主の生命保険料が所得控除として所得額から引かれることはありますが、経費として認められているわけではなく、12万円という上限もあります。一方、法人が契約者となる生命保険は、種類や契約内容によって全額経費として計上することが可能です。
社会的信用度
個人事業は法人事業と比べて、事業上で大きな差はありませんが、社会的信用度が高くありません。
法人は会社法などの法律に基づいてより厳格に運営されるため、社会的信用が高いとされ、銀行での融資においても財務面の透明性の観点から、審査に通りやすい傾向にあります。人材採用においても、法人の方が社会保険や就業規則におけるメリットを提示でき、より優秀な人材を獲得しやすいです。
自宅開業のメリットとデメリット
ここでは自宅開業のメリットとデメリットをそれぞれ解説します。
メリット
家賃や光熱費の削減
自宅開業の場合、毎月の家賃や水道光熱費などを家計と共通化できるため、出費を削減できます。また、デスクやチェア、通信回線といった院内環境を自宅にあるもので流用することで、環境構築費用を抑えることも可能です。さらに、毎月の自宅家賃の一部を経費化できるというメリットもあります。一般的に、事業利用している面積比率や時間比率に応じて10~30%程度、家賃を費用として計上できます。
ワークライフバランスの向上
ワークライフバランスの向上も、自宅開業の大きなメリットです。
自宅が職場になることにより、通勤に要する時間とストレスはなくなります。また、仕事をする時間も自由に決められるため、自身のライフスタイルに合わせたスケジュールを組むことが可能です。一方、仕事とプライベートの境界があいまいになりやすいため、家の中に明確な仕事スペースを設けるなど、明確な境界設定を行うことが求められます。
顧客満足度とリピート率の向上
接骨院などのサービス事業を自宅で開業することにより、顧客満足度とリピート率の向上につながります。
自宅の一部を自由にカスタマイズできるため、プロフェッショナルでありながらも温かみのある、個々の顧客に合わせた施術環境を作り出すことが可能です。また、施術時間の設定も自由なため、顧客1人ひとりに時間をかけることで、顧客の健康状態や好みについての詳細なカウンセリングを行い、パーソナライズされたケアプランを提供できます。
デメリット
集患が難しい
自宅開業は、施術者の働きやすさは実現できますが、集患が難しくなってしまうため工夫を凝らさなければいけません。
集患が難しい理由としては、住宅地にあるため目立ちにくい、飛び込みのお客様が来ないといった点が挙げられます。住所という個人情報が公開されることを恐れて広告を出せない場合もあり、思ったように集患できなくなってしまう可能性があります。そのうえで、自宅開業を開始する前に、あらかじめ集患方法について考えておくことが重要です。
インフラ面が脆弱
住宅用として設計されている自宅は、店舗や事務所用として設計されている物件よりも、備え付けられているインフラが弱いです。
そのため、自宅で開業した場合、治療機を使用した際に電源容量が足りずにブレーカーが落ちる、排水が追い付かずに水があふれる、ネット回線が遅いといったトラブルが予測されます。戸建住宅であれば改装で対応できる場合が多いですが、賃貸やマンションの場合は改装できず、他の住民に迷惑をかける可能性があります。自宅の設備でどの程度まで仕事ができるのか、あらかじめ確認しておくことが必要です。
また、来客による違法駐車の問題は、近隣トラブルの原因となることが少なくありません。したがって、駐車場の確保などの適切な対応が不可欠です。
防犯面の不安
防犯面の不安は、自宅で開業する上で無視できない課題です。
一般的なテナントと比べると、戸建てやマンションといった居住地のセキュリテは脆弱である傾向にあります。オフィスとして利用している自宅の一室に空き巣が入ってしまえば、金品だけでなく、顧客情報などの情報が詰まったパソコンやタブレットを狙われることもあるため、注意が必要です。
また、自宅開業の接骨院の場合、不特定多数の人が自宅に来ることになります。トラブルに巻き込まれた場合、個人事業主だけでなく、家族の生活に影響が出る可能性があるため、施術用スペースと居住用スペースの間に鍵のかかるドアを設置するなどの対策を講じることをおすすめします。
自宅開業で必要なもの
自宅開業で必要なものは、必須アイテムと準備しておくと良いアイテム、資格があります。
必須のアイテム
自宅での接骨院開業には、いくつかの必須のアイテムがあります。これらのアイテムは、スムーズな運営や快適な施術環境の確保に欠かせません。以下で接骨院の自宅開業に不可欠なアイテムを紹介します。
- 看板:自宅での接骨院を示す看板は、重要な集患アイテムです。
- ベッド: 施術に使用するベッドは、施術の効果を高めるために欠かせません。
- タオル/枕/シーツ:衛生面を考慮し、清潔なタオルや枕、シーツを用意することは重要です。
- 問診票:患者の状態や症状を正確に把握するために、問診票の用意が必要です。
- 領収証: 施術料金の支払いに関する領収証は、経理や患者の保険請求などに必要となります。
準備しておくと良いもの
自宅での接骨院開業にあたり、準備しておくと便利なアイテムもあります。以下のアイテムは、より良いサービス提供につながります。
- 患者の着替え:施術の際に使用する着替えを用意しておくことで、患者の利便性を高めることができます。
- 手荷物入れ:患者の手荷物を収納できるスペースを設けることで、快適な待ち時間を提供できます。
- 柔道整復師の施術着:専用の施術着を用意しておくことで、プロフェッショナルなイメージを与えることができます。
- カーテンなどの仕切り: 施術スペースや待合室を仕切ることで、プライバシーと快適さを確保できます。
- 観葉植物:リラックス効果や癒しを提供する観葉植物は、心地よい空間づくりに役立ちます。
- BGM設備:心地よい音楽を流すことで、患者のリラックス効果を高めることができます。
- ウォーターサーバー:患者の健康と快適さを考え、飲み物の提供を行うことができます。
- 予約システム:予約管理を自動化でき、患者が予約する際の利便性も向上します。
資格
接骨院を開業するためには、「柔道整復師」という国家資格の取得が不可欠です。柔道整復師の国家試験を受けるためには、文部科学省が指定した4年制大学、または都道府県が指定した専門養成施設で、3年以上専門のカリキュラムを学び、必要な単位数を履修して卒業(卒業見込みを含む)する必要があります。
また、「施術管理者」になることで、接骨院における療養費などの正しい取扱い方法を習得することができます。施術管理者になるための要件は、柔道整復師の資格取得と、公共財団法人 柔道整復研修試験財団の「柔道整復施術者管研修」 の受講です。
自宅開業を成功させるポイント
下記で自宅開業を開業させるポイントを詳しく解説します。
生活感を出さない
自宅での接骨院開業を成功させるためには、生活感をなるべく出さないことが重要です。プロフェッショナルな雰囲気を演出することで、患者から信頼獲得につながります。
接骨院と居住スペースを明確に区別するために、独立したスペースを設けることにより、生活感が出ない空間を作ることが可能です。また、モダンで清潔感のある内装や家具を選ぶことで、一般的な住宅との違いを患者に示すことができます。
ターゲット層にあった集患を実施
自宅開業の場合、立地や周辺環境の影響で、集患が上手くいかない場合があります。そのため、ターゲット層に合った効果的な集患を考えて、的確に実施することが求められます。
接骨院に患者を集患する代表的な方法には、Web広告やリアル広告、集患アプリ、SNS運用などがありますが、集患したいターゲット層によって効果的な方法が異なります。
たとえばWeb広告のひとつのリスティング広告は、キーワードを指定できるため、より来店見込みの高い患者へのアプローチが可能です。「地域名+接骨院+O脚」を指定すれば「地域でO脚改善治療がある接骨院を探している人」をターゲットにできます。
予約受付体制を整える
自宅開業を成功させるためには、効果的な予約受付体制の整備が不可欠です。予約がスムーズになることで、患者のストレスが減り、患者獲得数の増加につながります。
予約を円滑化する手段としては、予約システムの導入が有効です。予約システムを導入することで、予約管理が自動化され、個人事業主の負担も大きく軽減されます。
接骨院・整骨院の自宅開業向けの予約システムとは
接骨院の自宅開業向けの予約システムは、接骨院の予約や患者の管理を自動で行うシステムです。院における業務の効率化はもちろん、集患に役立つ機能を数多く搭載しています。ここでは、予約システムを導入する目的と予約システムの導入メリットについて解説します。
予約システムの導入メリット
予約システムを導入することで、接骨院の自宅開業において大きな手助けとなります。以下は、そのなかでも特に効果的なメリットです。
・業務効率化
予約システムは予約受付や患者の情報を自動で管理します。人の手により紙やExcelで管理する必要がありません。書き間違いや聞き間違いなどの人為的ミスも発生しなくなり、正確で効率的な接骨院の運営が実現します。
・費用削減
予約システムの自動管理機能は、費用の削減にも効果的です。予約や患者の情報はデータ化されるため、大量の紙や管理するスタッフに費やしていた経費は低減されます。
・マーケティングの強化
予約システムを通じて集められる患者のデータを分析し、ターゲット市場の動向や患者の需要を把握することができます。このデータをもとに、効果的なマーケティング戦略を立案可能です。
・顧客体験の向上
予約の確認や変更をオンラインでかんたんに行えることで、患者の利便性が向上します。また、待ち時間の短縮やスムーズな受付が実現し、患者の満足度も高められます。
接骨院・整骨院の自宅開業に役立つ予約システムの機能
予約システムは数多く存在しており、それぞれ搭載している機能は違います。下記に、接骨院に役立つ予約システムの機能を紹介します。
カルテ機能
カルテ機能は、予約ごとに患者の対応時の記録や、患者の特記事項などを記録できる機能です。予約や患者の情報の管理、施術当日のカルテ記入などの業務など、あらゆる面で業務を効率化できます。
クーポン機能
クーポン機能は、予約促進に役立つ割引クーポンを、予約システムから手軽に発行できる機能です。来院率の向上や、顧客ロイヤリティの向上に役立ちます。
キャンセル待ち機能
キャンセル待ち機能は、予約が埋まっている予約枠にキャンセルが生じた際、キャンセル待ちをしている予約者に対して自動で通知する機能です。患者獲得の機会を逃さず、効率的な接骨院の経営を実現します。
まとめ
今回は、個人開業と法人開業の違いから、接骨院における自宅開業のメリットとデメリット、必要なアイテム、自宅開業を成功させるポイントを明らかにしました。個人開業は、法人開業に比べて掛かる費用も低く、手続きもかんたんである一方、経費として適用できる費用の範囲が狭く、納付する税金も高くなるといった特徴があります。
また、自宅開業は、家賃や光熱費の削減やワークライフバランスの向上、患者の満足度とリピート率の向上といったメリットが存在します。一方、デメリットは、集患が難しい、インフラ面が脆弱、防犯面での不安などです。
生活感を出さず、ターゲット層にあった集患を実施し、予約システムを導入することで、接骨院の自宅開業を成功に導くことができます。
接骨院の自宅開業で悩んでいる人は、ぜひ本記事を参考にしてください。
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