厚生労働省の「令和6年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」によると、2024(令和6)年末時点で、全国の「はり及びきゅうを行う施術所」は35,494か所でした。2022年の33,890か所から1,604か所、4.7%増加しています。
鍼灸院が増えるなかで継続的に経営するには、施術内容や集客施策だけでなく、開業時の物件選びが重要です。ターゲットが通いやすい立地であることに加え、賃料、広さ、設備、周辺環境などを確認する必要があります。
さらに、鍼灸院として使用する施術所には、法令で定められた構造設備基準があります。条件に合わない物件を契約すると、追加工事が必要になったり、予定していたレイアウトを実現できなかったりする可能性があるため、契約前の確認が欠かせません。
本記事では、鍼灸院を開業する際の物件選びについて、事前準備や物件探しの流れ、構造設備基準、居抜き・スケルトン物件の違い、内見時のチェックポイントなどを解説します。
鍼灸院の物件選びの流れ

物件選びは、事業計画の作成から条件整理、物件探し、内見、契約まで複数の工程があります。開業予定日から逆算し、内装工事や施術所の届出に必要な期間も考慮して余裕を持って進めましょう。
ここでは、賃貸物件で鍼灸院を開業する場合の基本的な流れを紹介します。
1.事業計画の作成
ターゲット、提供する施術、料金、店舗規模、必要なスタッフ数、開業資金、売上見込みなどを整理します。事業計画を具体化することで、物件選びで譲れない条件を明確にできます。
2.物件の希望条件を整理
開業予定エリア、広さ、賃料の上限、駅からの距離、階数、設備などの条件を整理します。あわせて、鍼灸院として必要な施術室・待合室を確保できるかも確認します。
3.物件探し・内見
不動産情報サイトや不動産会社を活用して候補物件を探します。内見では、間取りや設備だけでなく、周辺環境、アクセス、競合となる施術所なども確認しましょう。
4.構造設備基準を確認
鍼灸院には施術室の広さや待合室、換気、消毒設備などの構造設備基準があります。契約や内装工事を進める前に、候補物件で基準を満たせるか確認します。必要に応じて管轄の保健所等へ事前相談しましょう。
5.申し込み・審査・契約
条件に合う物件が決まったら申し込みを行い、審査を経て賃貸借契約を締結します。鍼灸院としての使用が契約上認められているか、内装工事や看板設置に制限がないかも確認します。
6.引き渡し・内装工事
物件の引き渡し後、内装工事や設備・備品の搬入を進めます。施術所を開設した場合は、法令に基づき開設後10日以内に必要な届出を行います。
物件を選ぶ前に事業計画で決めておくこと
ターゲット
鍼灸院の物件を選ぶ前に、主な利用者となるターゲットを明確にします。年齢層や生活スタイル、職業、来院しやすい時間帯、利用目的などを整理すると、適した立地や営業時間を考えやすくなります。
例えば、仕事帰りの会社員を主な対象とする場合は駅やオフィス街から通いやすい場所、地域住民を中心とする場合は住宅地や駐車場を確保しやすい場所などが候補になります。
ターゲットを明確にすることで、想定する利用者数や施術単価から売上予測を立てやすくなり、物件にかけられる賃料や設備費も判断しやすくなります。
コンセプト
コンセプトでは、「誰に、どのような施術やサービスを提供するか」を具体化します。一般的な鍼灸施術を中心とするのか、美容鍼など特定の分野を中心とするのかによって、必要な設備や内装、立地なども変わります。
また、プライバシーを重視した個室型、複数の施術ベッドを配置する運営、予約制の小規模院など、運営方法によって適した間取りも異なります。
物件を先に決めるのではなく、コンセプトに必要な空間や設備を整理してから物件を探すことが重要です。
設備・規模
鍼灸院の規模は、施術者数、同時に対応する利用者数、施術ベッドの数などから検討します。施術スペースだけでなく、待合室、受付、収納、消毒設備などに必要な場所も考慮しましょう。
開業資金には、物件取得費、内装工事費、施術ベッドや備品などの設備費、広告宣伝費などの初期費用があります。さらに、開業後は賃料、人件費、水道光熱費、消耗品費などの運転資金も必要です。
初期投資と毎月の固定費を整理し、どの程度の売上で費用を回収できるかを試算しておくと、適切な物件規模を判断しやすくなります。
資金調達
自己資金だけで開業資金をまかなうことが難しい場合は、日本政策金融公庫や金融機関などからの融資を検討する方法があります。
融資を受ける際は、開業の目的や提供するサービス、ターゲット、収支計画、必要資金などを整理した事業計画が重要です。物件取得費や内装工事費についても、事前に見積もりを取得して必要資金を具体化しましょう。
賃料の上限
物件を探す前に、事業計画をもとに継続して支払える賃料の上限を決めておきます。条件の良い物件でも、固定費が売上見込みに対して高すぎると長期的な経営を圧迫する可能性があります。
開業直後から計画どおりの利用者数を確保できるとは限らないため、一定期間の賃料や運転資金も含めて資金計画を立てましょう。
鍼灸院の物件選びで確認したいポイント
事業計画と希望条件を整理したら、具体的な物件を比較します。立地や広さに加えて、鍼灸院として開設するための構造設備基準を満たせるかを必ず確認しましょう。

立地とエリア
立地は、鍼灸院への通いやすさや認知度に影響する要素です。駅前、オフィス街、商店街、住宅街など、エリアによって利用者層や来院しやすい時間帯が異なります。
ターゲットが普段利用するエリアか、最寄り駅やバス停からアクセスしやすいか、自動車で来院する場合に駐車場を確保できるかなどを確認します。
また、単純な人通りの多さだけでなく、設定したターゲットが周辺を利用しているかを確認することが重要です。
面積と規模
鍼灸院では、法令上の構造設備基準を踏まえて広さを確認する必要があります。あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律施行規則では、施術所について、6.6平方メートル以上の専用の施術室と、3.3平方メートル以上の待合室を設けることが定められています。
物件全体の面積が十分でも、柱や廊下、収納などの配置によって必要な施術室・待合室を確保できないケースがあります。契約前に平面図を確認し、実際のレイアウトを想定しておきましょう。
構造設備基準
鍼灸院として使用する施術所には、以下のような構造設備基準があります。
・6.6平方メートル以上の専用の施術室を設ける
・3.3平方メートル以上の待合室を設ける
・施術室の面積の7分の1以上を外気に開放できるようにする、または適切な換気装置を設ける
・施術に使用する器具や手指などを消毒する設備を設ける
・施設を常に清潔に保つ
・採光、照明、換気を十分に行う
これらは国の施行規則で定められた基準です。加えて、自治体が施術所の独立性や施術室と待合室の区画、プライバシーへの配慮などについて独自の指導基準を設けている場合があります。
物件を契約した後に基準を満たせないことが判明すると、追加の工事が必要になる可能性があります。候補物件が決まった段階で、平面図を用意して管轄の保健所等へ相談しておくと安心です。
周辺環境のリサーチ
周辺環境も物件選びの重要な判断材料です。近隣の住宅やオフィス、商業施設、競合となる鍼灸院やその他の施術所などを確認します。
Web上の物件情報だけでは、時間帯ごとの人通りや騒音、建物への入りやすさなどを把握できない場合があります。内見の際は周辺を実際に歩き、平日・休日や昼・夜で環境が大きく変わらないかも確認するとよいでしょう。
事業利用・内装工事が可能か
賃貸物件で鍼灸院を開業する場合は、賃貸借契約上、施術所として使用できるかを確認する必要があります。特に住居用マンションやアパートでは、事業利用や不特定多数の来訪、看板の設置などが禁止されている場合があります。
また、施術室と待合室の区画や換気設備などを整えるために内装工事が必要になるケースもあります。壁や床の施工、設備の追加が可能かを貸主・管理会社へ確認しましょう。
鍼灸院で利用できる物件の種類
居抜き物件とスケルトン物件
テナント物件には、前の店舗が使用していた内装や設備が残っている「居抜き物件」と、建物の基本構造のみが残っている「スケルトン物件」があります。
どちらが適しているかは、開業予算、希望する内装、既存設備の状態、工事期間などによって異なります。
居抜き物件
以前も鍼灸院や治療院として利用されていた居抜き物件では、受付や施術スペース、空調などを再利用できれば、内装工事の範囲を減らせる可能性があります。
一方、既存設備や内装が現在の運営方針に合わない場合は改修が必要です。設備の劣化や故障、造作の所有関係、退去時の原状回復条件なども確認しましょう。
また、以前に施術所として使用されていた物件であっても、自身の開業時には現在の構造設備や届出要件を改めて確認する必要があります。
スケルトン物件
スケルトン物件は、施術ベッドの配置や受付、待合室などを自院のコンセプトに合わせて設計しやすい点が特徴です。
一方、床や壁、空調、電気、換気などを一から整備する必要がある場合、居抜き物件より工事費や工期が大きくなることがあります。施工会社と現地を確認し、工事費を見積もってから契約を判断しましょう。
路面物件
路面物件は、一般に建物の1階など道路から直接出入りしやすい店舗物件を指します。店舗を見つけてもらいやすく、通行する人に院の存在を認知してもらいやすい点がメリットです。
一方、好立地の路面物件は賃料が高い場合があります。人通りの多さだけで判断せず、ターゲット層、固定費、Webからの集客方法なども踏まえて検討しましょう。
商業施設・複合施設内のテナント
商業施設や複数の店舗・サービスが入居する複合施設内に鍼灸院を開設する方法もあります。施設自体への来訪者がいることや、駅などからアクセスしやすい立地であることがメリットになる場合があります。
ただし、施設によって入居可能な業種、営業時間、内装、看板などの条件が定められています。鍼灸院の入居が認められているか、構造設備基準を満たす内装工事が可能かを事前に確認しましょう。
賃貸マンション・アパート
事業利用が認められているマンションやアパートの一室を利用して、小規模な鍼灸院を開業する方法もあります。テナントと比較して賃料を抑えられる物件もありますが、すべての住居用物件で施術所を開業できるわけではありません。
賃貸借契約や管理規約で事業利用が認められているか、施術所としての来訪者の出入りが可能か、必要な内装工事を行えるかなどを確認する必要があります。
さらに、専用の施術室6.6平方メートル以上、待合室3.3平方メートル以上といった構造設備基準も満たす必要があるため、物件の間取りを十分に確認しましょう。
鍼灸院向け物件の探し方
物件を探す方法としては、不動産情報サイトで候補を絞り込む方法や、開業予定エリアの不動産会社へ直接相談する方法があります。
不動産会社には、「鍼灸院として開業する」「施術所の構造設備基準を満たす必要がある」ことを事前に伝えておくと、店舗利用ができない物件を候補から外しやすくなります。
居抜き物件を探す場合は、店舗専門の不動産サイトなども活用できます。ただし、掲載情報だけで契約を決めず、実際に内見して設備やレイアウトを確認することが重要です。

内見のポイント
物件情報では条件が良く見えても、実際に訪れると入口がわかりにくい、想定したレイアウトを確保できないなどの問題が見つかる場合があります。契約前には必ず内見を行いましょう。
鍼灸院では、一般的な店舗物件の条件に加えて、施術所の構造設備基準を満たせるかという視点が重要です。
【物件】
・鍼灸院としての使用が認められているか
・入口の入りやすさ、わかりやすさ
・6.6平方メートル以上の施術室を確保できるか
・3.3平方メートル以上の待合室を確保できるか
・施術室と待合室を適切に配置できるか
・換気設備や窓の状態
・消毒設備を設置できるか
・施術ベッドを配置した際の動線
・コンセントの位置、数、電気容量
・空調、給排水などの設備
・必要な内装工事が可能か
・看板を設置できるか
【周辺環境】
・最寄駅やバス停からのアクセス
・駐車場や駐輪場の有無
・周辺の雰囲気や治安
・競合する鍼灸院・施術所の有無
・ターゲット層の生活動線に合っているか
・曜日、時間帯ごとの人通り
構造設備の判断が難しい場合は、平面図を持参して保健所等へ相談したり、内装施工会社に候補物件を確認してもらったりする方法があります。
物件契約後の流れ・準備
物件の審査を通過したら、賃貸借契約の内容を確認します。賃料や初期費用だけでなく、契約期間、更新・解約条件、内装工事、看板、原状回復、居抜きの場合は造作譲渡の範囲なども確認しましょう。
契約後は、構造設備基準を踏まえて内装工事や設備・備品の準備を進めます。工事を始めてからレイアウト変更が必要になることを防ぐため、必要に応じて事前に管轄の保健所等へ相談しておくことが重要です。
あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律では、施術所を開設した場合、開設後10日以内に開設場所、業務に従事する施術者などの必要事項を届け出ることが定められています。具体的な提出先や必要書類は自治体によって異なるため、所在地を管轄する保健所等へ確認しましょう。
開業日が決まったら、物件・内装の準備と並行して、予約受付方法、Webサイト、集客、備品購入なども進めます。
>>治療院の開業に必要な準備とは?具体的な流れを詳しく解説!
まとめ
鍼灸院の物件選びでは、立地や賃料だけでなく、ターゲット、コンセプト、必要な設備、店舗規模などを事業計画に基づいて整理することが重要です。
特に、鍼灸院として使用する施術所には、6.6平方メートル以上の専用施術室、3.3平方メートル以上の待合室、換気、消毒設備などの構造設備基準があります。契約後に追加工事が必要になることを避けるためにも、候補物件を決める段階で基準を満たせるか確認しましょう。
居抜き・スケルトン、路面店、マンションなど、それぞれの物件には特徴があります。初期費用だけで判断せず、長期的な運営方法や利用者の通いやすさも含めて比較することが、鍼灸院の物件選びでは大切です。
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鍼灸院の予約受付・顧客管理には、クラウド型予約システム「RESERVA(レゼルバ)」を活用できます。RESERVAは35万社以上で利用され、350以上の業種に対応しています。
24時間365日のオンライン予約受付に対応しているため、施術中や営業時間外でも予約を受け付けられます。また、予約時アンケートを活用すれば、来院目的や相談内容などを事前に確認することも可能です。
開業準備の段階からオンライン予約の仕組みを整えておくことで、オープン後の受付業務をスムーズに始めやすくなります。鍼灸院の運営方法に合わせて活用を検討してみてください。